千年前の日本が生んだ美と技の到達点「紺紙金字経」
本作品の着想の源となったのは、国宝や重要文化財として伝わる「紺紙金字経」です。
藍で深く染め上げた紺紙に、金泥で経文を書き写す――。そこには、染め・金泥・界線・装画・装丁、そして表具に至るまで、工芸・書・絵が一体となった総合芸術の結晶があります。千年前のアートと職人技の到達点とも称され、当時の文化背景や原料・技法の研究対象としても高い価値を持つ文化財です。

表具師 井上雅博
掛け軸製作においては、表具師 井上雅博氏が西陣織や文化財修復にも用いられる美濃紙など、掛け軸を構成するすべての部材の選定、藍染後の軸装を行ないました。「百年後に次の表具師が直しやすい」ことを見据え、糊の選定、貼り方、紙の種類と使い分け、裂地(布)の取り合わせ、修復や洗浄の方法まで――千年間、継承されてきた知恵や経験を受け継いだ確かな技術で見事に仕立てられています。
藍師・染師 BUAISOU
作品の大きな特徴である、美しく深い藍色は、BUAISOUの藍染によるものです。BUAISOUは、純粋に藍の色と感覚を追求するため、通常は分業される藍の栽培、蒅(すくも)作りから、染色、デザイン、製作までを一貫して行っています。本紙、表木、軸先、巻き紐など細部に至るまで藍染を施し、深く澄んだ藍の世界に浮かぶ金字の一つ一つが、見事な対比を生み出しています。

表具師 井上雅博(京表具 井上光雅堂)
京表具 井上光雅堂 三代目。初代が京都国立博物館・国宝修理所で培った文化財修復の技を受け継ぎ、平安神宮・建仁寺などの掛軸、額、屏風、巻物の新調・修復を現在も手がける。自らも「空間表装」をテーマに表具の可能性を現代へ拡張し続ける、京を代表する若き表具師。(厚生労働大臣認定 一級表装技能士)

BUAISOU
2015年、徳島県とニューヨークで同時に起業。通常は分業される工程——藍の栽培、蒅(すくも)作り、染色、デザイン、製作——を一貫して行う。国内外での展示やワークショップを通じて天然藍の魅力を発信し、近年はNIKE、JIMMY CHOO、shu uemuraなどから数々のオファーを受ける。カニエ・ウェスト(現:イェ)やリアーナが工房を訪れるなど、世界的な評価を集めている。
詩・窪塚洋介
「和多志と私」「夢の向こう側」は、窪塚洋介による創作詩です。
当初は紺紙金字経と同じ工程で、金墨を用いた毛筆で紺紙に描く予定でしたが、書写当日に本人のアイデアでアプローチを変更。アートボードに幾重にも線を引き、線の重なりで文字を構成することで、言葉に独自の線形とリズムを生み出しました。
二度とない「今」が重なった作品
完成された作品は、深く澄んだ藍がもたらす品格ある軸装と、千年後にも残るであろう金色の輝きが、静謐な詩世界をかたちづくります。その全体に呼応するように、詩は独自の線とリズムをもって、静かに、しかし確かな輝きを放ちます。
図らずとも一つの作品を作り上げた三者は、それぞれが職人であり、クリエイターであり、アーティスト。古き良きを知り捉われず、感性を研ぎ澄まし、技術を磨き、自らを更新し続けている三者。
「和多志と私」「夢の向こう側」は、世界で評価を得る三者の“今”が重なり合って生まれた、二度とない作品です。



窪塚洋介個展「雲中白鶴」
2026年4/4迄の期間Gallry CRANEにて窪塚氏の多岐にわたる表現活動の中から、心象風景が色濃く反映された墨画の作品群と本作品「和他志と私」「夢の向こう側」を展示しています。是非ご覧ください。
あとがき
本製作にあたり、井上光雅堂様のご紹介及び作品撮影にご縁を繋いでくださいました両足院 伊藤東凌副住職へ深く感謝申し上げます。
衣装協力:in Between Blues / IKI LUCA
特別協力:両足院





